おへそのおなか


モテテクを駆使したのに全然モテなかった話

 モテたかった。

 生まれてこの方モテに縁のない人生を送っている私だが、中学生の頃は、勉学なんてさておきモテることばかり考えていた。モテたいがためにイーストボーイのスクールバッグ(スクバ)を持ち、プレイボーイの靴下を履き、メールアドレスには「stussy」と入れていた。それが当時の私が信じていた、モテるためのすべてだった。今、私が中学生だったら、自転車にSupremeのステッカーを貼りまくっていたことだろう。お察しの通り、私のモテるためのベクトルは、はじめからすこしズレていたのである。



 しかし、誤りだらけのモテ知識に革命を起こしてくれた雑誌がある。『セブンティーン』である。

 公式の説明を引用するならば「女のコのためのNo.1ティーンズマガジン」、その名の通り女子高生をターゲット層に据えた雑誌だ。私には4つ歳が上の姉がいる。私が中学生だった頃、姉はいわゆるキラキラJKであり、毎月セブンティーンを購読していた。ある日それを盗み見た私は衝撃を受けた。「モテテク」と称して、男子がキュンとくる仕草を特集していたのだ。

「おいおい、中学生の内から女子高生のモテテクを手に入れちまうとはな……!」

 私は鼻息を荒くしながら、モテテクを書き留め、そして実行に移すのであった。



 結論から言うと、一切モテなかった。



 まず実践したのが「クロスの法則」という有名なモテ界の重鎮ともいえるテクニックである。

 これは、右側にあるものを取る時は左手、左側の髪をかき上げる時は右手……など、あえて目標とは反対側にある手で動作を行うという単純なもので、この回りくどさによって色っぽさを演出できるとのこと。当時好きだったエンドウくんが通路を挟んで右隣の座席だったため、消しゴムを右側に転がしては左手で拾い、右側に転がしては左手で拾い続けた。

 当然ながらモテなかった。消しゴムを転がし続ける姿がふざけているようにしか見えなかったようで、担任に「集中しろ」と叱られるのみであった。



 クロスの法則ではモテないことに気付いた私が次に実践したモテテクが「ミラーリングの法則」である。

 これは、好きな人と同じ動作を自分もすることによって、何かしらの因果律でモテるというものだ。それを鵜呑みにした私は、右隣のエンドウくんがメモをとるタイミングですかさずメモをとり、エンドウくんが頬杖をつけば頬杖をつき、エンドウくんが伸びをすれば伸びをした。

 モテなかった。何なら気味悪がられることすらなかった。そう、私は完全にエンドウさんの眼中になかったのである。



 それからもコーラで髪を洗ったり、エンドウくんの名前の文字数分だけシャンプーをプッシュしたり、消しゴムにエンドウくんの名前を書いて使い切ろうとするなど呪術にも頼ってみたが恋が実る気配はなく、着々と成績、そして担任からの評価を落としていくのみであった。



 いい加減に諦めようと思っていた時、セブンティーンに「人気STモのカバンチェック」という記事が載った。さて、個人の敬称が「様」で団体の敬称が「御中」ならセブンティーンモデルの敬称は「©(ちゃん)」である。当時、人気STモであった徳澤直子©が、カバンの中身チェックというコーナーの中で「文房具は筆箱に入れずに、カバンに直接入れてる」と書いていた。

「これだ!」

 直感的に、私はそう思った。当時、少女漫画でヒロインが男の子に「ガサツ」と言われ、何だかんだいい感じになるのはテッパンだったからである。カバン(しかもイーストボーイのスクバ)から文房具が出てきたら、何と魅力的なガサツさを演出できるだろうか。私は純粋にそう信じ込み、その日の晩、早速、筆箱をひっくり返して中身をイーストボーイのスクバに突っ込み、遠足前夜などとは比べ物にならない高揚感を何とか抑えて眠りに就いた。



 さて、来る翌日。国語の授業だったと記憶している。私はこれまでに培ったモテテクを遺憾なく発揮できるタイミングを待った。授業が始まって程なくして、その時は訪れた。エンドウくんがメモをとったその瞬間、机の右側のフックにかけたイーストボーイのスクバから左手でシャーペンを取り出したのである。ミラーリングの法則、クロスの法則、そして徳澤直子©。全てのモテが、私に味方した瞬間であった。



 しかし、エンドウくんは、一切こちらを見ていなかった。



 夢が打ち砕かれた夏の日。お弁当のサバの匂いがグリップ部分に染み付いたドクターグリップを握り締めながら、この先、私がモテることは二度とないと知るのであった。