おへそのおなか


京都から岡山を旅したじゃがりこ

 岡山・京都間の移動に高速バスを使うようになった。これまでは行き当たりばったりで家を出て新幹線に乗るなどしていたのだが、一番安く行ける回数券を購入し、乗車のたびに1つスタンプを貰えるバスカードを大切に財布に忍ばせている。あと8つで無料乗車券がわりだ。新幹線を使えなくなった理由は、まあ、お察しください。

 最近もしばらく京都に滞在していた。なにせ京都の人間はすぐに人を泊める習性があり、宿をとらずしてなんとなくその辺りをうろうろしながら「能もなければ金もねえ♪」とスイスイスーダラしていれば見かねた誰かがうちに来なよと風呂と寝床を提供してくれるといった具合なので、岡山で顔を上げて歩けない私には持ってこいの避難先なのである。本当にいつもありがとうございます。

 そんな調子なのでもはや旅行というより逃避と呼んだ方がすとんと来る。もはや京都に根を生やしてやろうかとも思うのだが、あらゆる籍が岡山にある以上そうもいかない用事が発生してしまうもので、今回もあらがえぬ力にズズッと引き寄せられ高速バスの予約をとった次第であった。

 京都から岡山まではおよそ3時間半。そんな長い時間をただ座って待てるほど気長でもないので、口慰みを獲得すべく乗り込んだセブンイレブンで手に取った「ナチュラルポテトうましお味」と「カプリコのあたま」を連れていざゆかんとバス乗り場を目指すのだが北やら南やらなんとか口やらなんとか口といった位置関係がまったく分からず、たっぷり時間に余裕を持って発ったはずだというのに出発時間ぎりぎりに汗だくだくでバスに乗り込む始末であった。なんとか腰を落ち着けてナチュラルポテトうましお味をドリンクホルダー、カプリコのあたまを網ポケットにセットする。ラッキー、隣の席には客がいないぞ。手持ちのトートバッグを置かせていただく。快適なバスの旅の始まりだ。

 通路をはさんで反対側の座席には化粧気の薄い20歳前後と見える女性が座っていた。ドリンクホルダーにじゃがりこがセットしてある。お互いいい趣味してるね、快適なバスの旅を楽しもうねと念を送りナチュラルポテトをひとつ食べる。おいしい。もう一口。おいしい。もう一口。おいしい。もう一口。おいしい。もう一口。おいしい。あ、いけない、まだ京都駅も見えるというのに半分近く食べてしまった。一度手を置く。

 カプリコのあたまも食べようかな。12個入りなので、慎重に食べ進めないといけない。一口。おいしい。もう一口だけ。おいしい。2つ食べてもまだあと10個ある。はじめから10個入りだったと考えれば実質まだひとつも食べていないということになる(?)ので、もうひとつだけ食べようかな。ぱくぱく。そんな調子で自分に負け続けているうちに、あっという間にすべて食べつくしてしまった。まだ京都府すら出ていない。絶望。じゃがりこ女をちらりと見てみる。まだほとんど食べていないのではないか。目の前にじゃがりこがありながら手をつけずにいられるとは、並大抵の精神力ではなさそうだ。圧倒的な自律心。さては食べてすぐ皿を洗えるタイプの人間だな。そんなことを考えながらうましおにまみれた指をぺろりと舐める。うまい。おやつがなくなってしまった以上、仕方ない。おやつ代わりにタイムラインを更新し続け、サービスエリアを待った。

 水をちびちび飲みながらサービスエリアを焦がれること2時間、到着のアナウンスに意気揚々と降り立ち、サービスエリア料金でトッポを買った。トッポはなにせ2袋入りだ。10分に1本かじればお釣りがくる。お腹もまあまあ膨れているので大丈夫だろう。安心してバスに戻る。じゃがりこ女は相変わらず京都のじゃがりこをセットしたままだ。私のナチュラルポテトとカプリコのあたまは、空になり兵庫のサービスエリアのゴミ箱に飲み込まれてしまったというのに。岡山まで連れて帰ることができなくてごめんよ。私はもう兵庫のトッポに夢中だよ。

 出発するまでの間にトッポを開封する。無意識に2本いっぺんに口に放り込み、口の左右でぽりぽり噛む。しまった。2本ずつ食べていたら岡山までもたないぞ。それでも細い棒状のおやつは2本同時に食べるのがもっとも素敵なのでそれを我慢することはできない。シンメトリーな食感。うっとり。いや、なにも難しく考えず食べるペースを抑えればいいのだ。とはいえ目の前にこんなにおいしいおやつがあるのに我慢できるはずもなく、一口だけ、と2本のトッポを口に運ぶ、これを繰り返しているうちにあっという間に1袋目が空になる。駄目だ駄目だと思いながら2袋目に手をつけて、その後はあっという間だった。横目でうかがうじゃがりこ女は乗車してからじゃがりこを1本食べただけ。細い棒状のおやつを1本ずつ食べられる人間は強い。相変わらず2本ずつトッポをかじりながら、そう確信した。

 早々にトッポを食べ尽くしてしまい白目を剥きながら座席に体を預ける。かくなる上は寝よう。グースカピー。次に岡山で目を覚ました時にも相変わらず京都のじゃがりこじゃがりこ女の前にお行儀よく座っていて、じゃがりこ女はスカートをふわりと揺らしながら、京都のじゃがりことともに岡山の地へと降り立っていくのであった。