おへそのおなか


その体位が最善だったんじゃないのかよ

 夜、京都で市バスに乗った時のこと。混み合っている車内に空席はなく、立っている客も多かったのだが、その中に、若い男女の姿があった。男性の左手にはユニバーサル・スタジオ・ジャパンの土産袋がさげられ、右手で吊り革をつかんでいる。女性の方はというと、男性と向かい合って立ち、吊り革をつかむ彼の二の腕を枕がわりにするように頭を預けて、上目遣いに熱い視線を彼に送るばかりか時折目頭をおさえるような素振りで別れを惜しんでいることをアピールしている。バスの揺れのせいにするかのように身体を密着させる二人。今にも唇が触れ合いそうな距離感だ。周囲の客は二人の前戯に乱されまいと何事もないかのような顔をしながら、それでいて、可能な限りの距離を取っていた。気にしたら負けという空気がバス内に漂う中、私は目深にかぶったキャップのつばの端から、二人の動向を見守る。しばらく見守っている内に、あるバス停で纏まって降りる客があって、いくらかの空席が生まれた。女性は彼から視線を離したかと思うと他の乗客をかき分け空いた一人用の座席に腰を下ろしたのである。一瞬の出来事であった。いやその体位が最善だったんじゃないのかよ(あとこれはただの悪口ですが、男性が、マスタード色のトレーナーに合わせて同じような色のオニツカタイガーを履いていたのが、なんか嫌でした)。おわり