おへそのおなか


2018年11月30日 祖母の皮

 寝て起きた。洗濯機を回してまた寝た。ピーピーピーとやかましい洗濯終了の音で起きて、そのまままた寝た。

 どれくらい経っただろう。眠り呆けていたら、ぺたぺたと湿っぽい音が近付いてくることに気が付く。薄目を開ける。自分が中学生の時に死んだ祖母だ。

「もう乾きにくくなってるんだから早く干してしまいなさい」

 私は祖母の名前を忘れた。何度か聞いたのだが結局「おばあちゃん」としか呼ばないので、何度でも忘れた。かつてはよく祖母の家にも泊まりに行ったのだけれど、晩年は目がとろんとし、施設に入って、私の名前もすっかり忘れてしまっていた。しかし、今目の前にいる祖母はしゃっきりしている。私の名前も覚えているだろう。こちらだけ名前を忘れていることを勘付かれては気まずいので、生返事をして仕方なく起き上がり、洗濯機の中でずっしりと重くなった衣類をかごに移す。ちらと振り返ってみると、祖母はもう、腐敗していた。洗濯物をひとつひとつハンガーに干した。祖母も中身を抜いて干した。冬といえど晴れなので、夜には乾くだろう。

 タイツを買いに出かけた。精が出る店員の呼び込みは聞いていないふりをしながら「ただいまアプリをインストールしている方10%オフです」と言っている声だけちゃっかり拾って、店の隅でアプリをインストールした。変な色のタイツを3足買った。

 どこを歩いてもにぎやかだった。アロマだかの専門店の前を通ると、あれやこれやが混じりに混じった匂いがした。どれも自分の人生には関係のない匂いだ。べつに構いやしないけど、さっさと帰らなくちゃと思った。泣きたかった。千鳥足のじいちゃんがいた。手にはパックの酒を持っていた。彼が私の天使だ。

 家に帰って洗濯物を取り込む。干すのが遅くなったせいか、冬のせいなのか、まだ湿っていた。仕方ない。部屋に干しておこう。祖母の皮はもうなかった。


じいちゃん