おへそのおなか


結末はキミの目で確かめてくれ!

 ひと月半ほどお酒を飲んでいなかったのだが、今日は久しぶりに飲んだ。とは言え三杯ほどであり、意識もはっきりしている。しかし、帰路につく私の腹は、明らかに違和感を訴えていた。

 そう、嘔吐感である!

 歩けば歩くほど揺れる胃、の中のなんやかんやが、食道をせり上がろうとしているのを感じる。ゲロが「一回出てもいいッすか!」などとのたまうので、ダメですとこたえました。それで一度はゲロを胃の底に追いやったんだけど、またすこし歩くとゲロがぬぬーっと這い上がってこようとするので、仕方がない、一度コンビニに寄ってトイレを借りてこやつを解放してやろうと、ちょっとだけ足を速めたんですね。すると前方に、スマートフォンをいじりながらのろのろと歩く女がいるので、そいつを追い抜かそうとしたんです。そしたら女がはっと振り返り、ポ太郎の姿を確認した。

 どういう訳か、ポ太郎の姿を確認して、女が歩く速度を上げたのである!

 ええーっ、ちょっと待ってよ、私のどこが不審なのさと嘔吐感も相まって絶望的な気持ちになったけれど冷静に考えてみると、こんな夜遅くにキャップを目深にかぶり、前傾姿勢で、ハァハァと口呼吸をしている奴、そりゃあ若いお嬢さんには脅威でしかないよね。しかしこちらだって譲る訳にはいかない、サッと抜かせてさえくれれば済む話なのだ、ね、逃げるのをやめて、抜かせておくれ。

 ポ太郎、息を荒げながら女を追い抜こうとする。

 女、振り返り振り返り歩く速度を上げる。

 ポ太郎、さらに速度を上げる。

 女、ますます逃げる。

 イ、イヤーーー!

 最早ここまでか、いやしかし、ポ太郎は、道端で嘔吐する訳にはいかないのだ……。ただでさえ働いてないからね(ゲロ曰「関係あるッすか?」)……。ポ太郎、ハァハァと喘ぎながらさらに速度を上げる。女よ頼む、元の、へろへろとした歩調に戻ってくれ、そしてただポ太郎に追い抜かせてくれ。そうすれば、ぼくたちは、お互いを攻撃することなくやっていけるんだから。

 念願むなしく女はたったかたったかと足早に歩くばかり。しかし頑張れば追い抜けないということもなさそうだ。ハァ、ハァ、ハァ。食道の奥深くからゲロが白状する。「すんません俺、そろそろ無理そうっス」このっ、馬鹿者、主人がこんなに必死で耐えているというのにっ、ゲロの分際でっ、ウスノロッ、馬鹿っ、ド間抜けめがっ、図に乗るなっ! 罵倒の甲斐あってゲロはしょんぼりと胃に帰る。今だっ、今の内に……しかし女とポ太郎の距離は一向に縮まることなく、いつまでも二人のチェイスは終わらない。コンビニの光がやけに遠い。人通りの少ない夜道に、女の尖った靴音と、ポ太郎の荒い息だけが、ヴォエッ、響くのであった。

おわり