おへそのおなか


祖母の思い出

 あの日どうして私の家に祖母がいたのか思い出せない。祖母は祖母宅でおじと二人暮らしをしていたはずで、折角だしみんなで集まって過ごそうとかそういう話になったんだろうか、分からないけれど、とにかくその日はクリスマス・イブだった。

 父親が選んだ安物のバターケーキは不味かったけれど、みんなで文句を垂れながら食べた。昔はこれが上等だったんだぞ、と父はなぜだか偉そうにしていた。姉と兄と私は、サンタさんのためにカップケーキを部屋に置いていこうという話をした。市販のカップケーキにクリームやらチョコスプレーやらで装飾をしただけの簡単なものだ。朝まで起きてたらサンタさんに会えるかなあ、なんて話をしながら、結局すぐに寝てしまって、翌朝枕元に置いてあったかわいらしい紙に包まれたプレゼントを見て大喜びした。テーブルに置いておいたカップケーキはなくなっていた。

 わあ、本当にサンタさんが来たんだ、お父さんとお母さんが食べたんじゃないよね、と兄弟で大はしゃぎする。家族中の誰よりも祖母がにこにこと嬉しそうに笑っていたことを、この季節になると思い出す。

 病気で祖母の受け答えがままならなくなり始めた頃に、みんなで鳥取砂丘に行った。幼かった私は何となく、祖母と話すのが怖くなってしまって、後ろにいる祖母のことなんて忘れたみたいに一人で広い砂丘を走り回った。しばらくして祖母は施設に入った。一度だけ母と一緒に祖母の施設を訪ねた。私の顔を見ても何も言わず、母とだけ会話をしていた。清潔感を装ったようなぎこちない香りが充満するその施設から早く出たくて、目の前にいる祖母があの祖母だと認めたくなくて、私は二度と訪れなかった。

 祖母の死が近づいて、顔も知らなかった親戚が私たちの家に集まった。いよいよ最期の時、私はそれでも祖母のところには行けなくて、部屋で1人布団をかぶっていた。中学生の頃だったと思う。ようやく再会を果たしたのが葬式の日で、棺の中の祖母の頬はすっかりこけていて、誰だか分からなかった。

 最近になってよく祖母のことを思い出す。祖母の夢を見ることも増えている。あの日のカップケーキを食べてくれたのはもしかしたら祖母だったんじゃないだろうかなんて、そんなこじつけで仲直りをしようとしている。