火傷がたえない

 カップにお湯を注ぐ。沸かしたお湯が多すぎる。このまま注ぎ続けたらあふれると分かっている。危機感が湧いてこない。そのまんまお湯を注ぐ。やっぱりお湯があふれる。昨日の朝から履いている靴下が濡れる。熱い。そこでようやく大慌てになってシャワーで冷水をあびせる。私は万事こんな調子である。大学生の頃飲食店でアルバイトをしていた。まったく向いていなかった。出勤するたび叱責され、不器用なことをののしられ、そのついでに容姿を馬鹿にされた。理不尽である。このままじゃあふれると分かっている。危機感が湧いてこない。そのまんま傷ついていた。社会人になった。まったく向いていなかった。つらいつらいとあえぎながら毎日体を職場にはこび、自分と他人を効率よく傷つけた。むかし、自転車のブレーキをかけるのが遅くなって派手にこけてしまったときの傷跡が、ピンクに盛り上がって今も手脚に残っている。時々かゆくなる。ぼりぼりと掻きむしる。血が出る前にやめる。