2022年10月第2週

2022年10月2日(日)

 近所に酒屋がある。前だけは何度も通り過ぎているが、中に入ったことは一度もない。初めて入る店の扉は、実際よりも8キロ重い。重いんでそーっと開ける。そーっと開けたら入ったのに気付かれないんで、不審者ではないことを主張するために「こんにちは」と声をかける。カウンターにはどう見たってやさしそうな白髪のおばあちゃんが座っていた。返事はない。もう一度「こんにちは」と挨拶をすると、今度は「はーい」と返事があった。

「いらっしゃい。何をお探しですか」

「あ、贈りもの用に、あ、お酒を(、あ、)」

「はいはい、どんなのがいいですか」

 かくかくしかじかの希望を伝えて、適当なお酒を探してもらう。一枚のドアで仕切られた向こうが2℃に保たれたお酒の長期保存に適した環境になっているらしい。おばあちゃんはドアを開けたままにして入って行ったので、私はこっち側でその様子を観察していた。

 しばらくするとカウンターの奥からおじいちゃんも登場し、私と目が合ってぺこりと頭を下げ合った後で、とことこおばあちゃんに近づく。おばあちゃんがお酒を探している間、おじいちゃんはただただ見守っている。

「こんなのはどうですか」

 おばあちゃんが勧めてくれたいくつかのお酒の中から、ビビビと感じたひとつを選んで包装してもらう。包装はおじいちゃんの担当らしい。見守り・包装担当だ。たいへんまったりした手つきで、時間がかかるので(苦情じゃないんですよ)、その間おしゃべりをした。

 お二人は今朝、一緒に朝市に出かけて、注文から受け取りまで1時間もかかるという大人気のピザを買ったらしい。「やはりそれだけ人気のピザは一味違うのですか」と尋ねたところ、「自分らは食べてない。家の者にあげたんで分からない」なんて答える。

 ねえあなたたち、やさしい気持ちでたくさんの時間を過ごしてきたのでしょうね。あなたたちの人生は贈りものをするよろこびに満ちているのでしょうね。あなたたちの人生を尊敬します……。

 そんな酒を持参し、岡山の古本など屋「ながいひる」の9歳のお祝いに。贈りものを辞退されたらどうしようとどきどきしていたが、喜んでもらえてうれしかった。

 お祝いだけしてスマアトに帰宅するつもりだったのだが、ご飯の誘惑にあらがわず、結局居座った。久しぶりに会う人や、初めて会う人がいた。久しぶりに(2,3年ぶり?)料金&インターネット回線不要で人と話ができたのが楽しくて、すっかり夜更かしをした。夜更かしをしたくせに、「僕ちんは今からだって徒歩で帰るんだい」と暴れて、皆さんをウーンという顔にさせてしまったので、我と皆さんのためにもタクシーで帰ることにした。タクシー代の足しにといただいたパブリックマネーで、人々の日記や本を買った。私はここで本が買いたかったんだ。

 家に帰ってご機嫌で『ともだちはいいもんだ』を熱唱しながらシャワーを浴びた。歌詞全体を確認して「怖っ」と叫んで就寝。


2022年10月3日(月)

 人間に生まれた意味がない。自分は怠け者の卑怯者だ。この肉体が必要な魂があればいつだって譲るのに。

 水木しげる墓場鬼太郎』再読。再読というか、鬼太郎の誕生がかわいくてかわいくて、そこばかりを繰り返し読んでいた。赤んぼ鬼太郎かわいくてかわいくて仕方がないよー! くたっとしたやわらかさが本当に本当にかわいいよー! 水木の手の甲をペロペロ舐める赤んぼ鬼太郎の、ひんやりぬめぬめしたベロを想像してせつなくなるよー! アーンアンアン!

 またコップを割ってしまった。ガラス製の食器を所有する資格がない。手先が不器用すぎる。燈火親しむべしと言うが、自分が親しんだんじゃ秋の夜長に焼死である。


2022年10月4日(火)

 19時に美容室の予約をとった。夜に予定を入れると、夜までずっと「嫌だ嫌だ嫌だあああッ、予定を入れたのは確かに俺かもしれないが行きたくない行きたくないッ絶対に行きたくないッ」と右ゴロ左ゴロしなくてはならないのだが、いよいよ死ぬ時になって「あの右ゴロ左ゴロの時間がなければもう1冊くらい多く本が読めたのになあ」と思うとしたら切ないので、歯を食いしばって本を読んで過ごした。

 美容室では、美容師のシロサキさん(仮名)が私を楽しませようとしてなぞなぞを3問出してくれたのだが、1問不正解だった。恥ずかしい。自分はこういう失敗が二度とその人に会いたくない理由になってしまう。だがしかし、それなりに安全な行き場を簡単に失ってはつらいということも学習している。シロサキさんやさしい人だし、脅迫とか全然してこないし、次からも通う、通います、通いますけど。

 シロサキさん、たぶん客と会話したことを逐一メモに取り次回の接客に生かしてくるタイプの正統派美容師なので、なぞなぞ1問不正解だったことも永遠に忘れてもらえないのだろうな。忘れてもらえないことの恐ろしさを痛感する第一の場所、美容室。ああ、気が重い重い……。

 というか、なぞなぞ不正解を失敗と捉えるのがそもそも社会的動物として間違っているのだろうか。シロサキさんにとってなぞなぞはコミュニケーションなのだろうに。でも悔しいじゃん。悔しいよね? 急にあなたに話しかけてすみませんけど。

 風呂に入りながら間違えてしまったなぞなぞのことを思い出す。つらいお。嫌だお。忘れてくれお。


2022年10月5日(水)

 久しぶりにパンツ(アクセントの平板なほうのパンツ、スカートと対応するほうのパンツです。でもいちいちここまで説明するんなら、もうズボンでいいじゃないか)を履いて出かけた。横断歩道で渡る気配を見せてもまったく車が停まらない。人を轢かないよりも大事な用があるらしいから仕方ない。図書館で本を返して借りて、書店を経由して帰る。

 dアニメストアに『墓場鬼太郎』が追加されていたので、再加入して観た。人間がひどい目に遭う度に大はしゃぎした。生者のアンチ活動をするために死にゆくのではないのだが。それでもつい、人間じゃないほうに肩入れしてしまう。

【以下ネタバレ くコ:彡{一応ネ……】 特に第6話「水神様」はおもしろかった。一応自分を育ててくれた水木が、死の危機に瀕して鬼太郎の名を呼ぶのに、鬼太郎はあっさりと見捨ててしまう。あっけなく骨までサッ……と溶ける水木。サイコーすぎる。【以上ネタバレ】

 膝つきプッシュアップ、10回3セットやった。膝つかずはまだ出来ず。はやく力持ちになりたい! でっけ~山になって、でっけ~山をやっつけたい!


2022年10月6日(木)

 予感! うつの予防が必要だ! 涼しすぎる!
 窓にはりついて日光を摂取し、あたためた牛乳を飲む。筋トレもやる。寒さのせいか運動のせいかずいぶん疲れて、夕方から眠りこけてしまった。着信音で起床。母。

 スーパーで買い物。セルフレジを利用したのだが、肉はあとで袋に入れようと仮置き場に置いておいて、そのまま忘れて帰ってしまった。家に着いてから気がつき、慌ててスーパーに引き返して店員さんに尋ねる、「あ、さっきお肉忘れていませんでしたか」「ああ! 2パック買われてましたよね」「あ、はい!」(「あ、」「あ、」)たいへん感じの良い店員さんに対応していただき、無事鶏肝を取り戻したのであった。最近、忘れものが多くていけない。

 運命に社会的とつけるとずいぶん嫌な感じしますねえ。真神煉獄刹!


2022年10月7日(金)

 雨だし寒い。筋肉痛になっていてうれしい。胡蝶蘭が整列させられているのを見ると、人間が嫌になる。何かひとつ嫌なことがあると、人間まるごと嫌いになろうとするのは臆病な癖だ。情けない。

 アーモンド小魚をお腹いっぱい食べたくて自分で作ってみたのだが、なんか違う。

 砂糖と醤油がいらないのだな。調理法の問題でべっとりしすぎたのかしら。アーモンドと小魚を炒って軽く塩振るくらいがいいかもしれない。アーモンドと小魚はすてきな組み合わせです。

 職業訓練の選考に向けて、中学数学の勉強をする。もともと得意ではなかったが、輪をかけて計算が遅くなっている。国語はたぶん大丈夫だと思う。面接は、やっぱりだめかもしれないな。その時の勢いで受講を申し込んだが、はたしてどうなってしまうのだろう。でも、もしかしたら、ご飯に誘える友達ができるかもしれないし。できないかもしれないし。

 一人ぼっちで頭がおかしくなりそうだ。
 一人ぼっちじゃなきゃ頭がおかしくなりそうだ。


2022年10月8日(土)

ハンブルク特産の氷砂糖をジャマイカラム酒に浸したラムキャンディス。紅茶やコーヒーにひとさじで贅沢なくつろぎのひと時をお過ごし下さい。※アルコール:5%

www.kaldi.co.jp

 ラムキャンディス!

 こんなに素敵な、俺好みの商品がKALDIにあるらしいんだけど、うちには瓶とラム酒があるので、氷砂糖だけ買い足して自分で作ってみることにした。
 前に何が入っていたんだか分からない瓶を煮沸消毒し、氷砂糖を詰めて、ラム酒に漬ける。あとは待てばいいらしい。待つ。

 待ちきれなかったので、ホットミルクに垂らして飲んだ。液体に入れるんならそのまま砂糖とラム酒を入れるんでもいい気がするが、他人の例では、アイスクリームにかけるとすてきらしい。

 かわいすぎて衝撃。ドアラの絵、いいよなあ……。

 昨日からうじうじとしている。寒いのもあるし、生活の変化の予感がずりずりと近寄っているんで、嫌がっているんだろう。よく食べよく眠る。